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2重3重のウソばっかりと思っていたけど、実際は1つのことだったんだよ。
まわりくどいと思っていたのも自分のせいだったし、結局いろんなことも、単純なことだったんですよ。
力がある人は現実に多く居て、その1人と勘違いすることももうできない。1人暗い部屋で何するでもなく、酒でも飲んで楽しくないなと後悔することぐらいが趣味なんですよ。
目を閉じれば思い出は浮かび上がるけれども、本当なんでそれらは良かったことばかりなんですかね。こんなシステム誰が作ったんですかね。下の方へ落ちていく自分を傍で見て、1日1日「大丈夫かな?」と心配しているけれど、長い目で見ると、成る程だいぶ下の方まで落ちてしまっているのだろうね。こんなことがまず、前書きのようなものなのです。
『良子ちゃんと僕』
良子ちゃんはその可愛らしい口唇を横に大きく広げながら、楽しそうに僕を見ている。
「今日は調子が悪いんだよ!」
何度挑戦しても逆上がりができない僕は、恥ずかしい気持ちを抑えて、必死で言い訳をしている。
僕は、小学6年生にもなってまだ逆上がりができない。鉄棒を憎いとすら思う。良子ちゃんに見てもらったら一念発起、何とかなるかと思ってみたが、如何せん僕の身体能力は他人のそれよりかなり劣っているようだ。
小1時間ほどそんなことを続けて、やがて帰路につくことにした。
太陽が沈むのがだんだんと早くなってきて、僕は良子ちゃんに、
「なんで夜が長くなってくると、寂しくなってくるんだろうね」
と聞いた。良子ちゃんは相変わらず笑っていて、
「きっと皆が早く寝ちゃうからじゃあない?」
と答えてくれた。道に落ちてた石を拾って、僕は力の限り遠くへほおり投げた。良子ちゃんは少し心配そうな顔で、
「危ないよ」
と言っている。いつかどこかで見たような感触がした。僕は
「大丈夫だよ」
と言って、良子ちゃんの手をそっと握った。その冷たい手は、僕の気持ちを熱くさせた。
そう、僕は良子ちゃんのことが、好きなんです。
1年前の冬、学校で国語の教科書を忘れてしまった僕に、隣の席だった良子ちゃんは気付いてくれた。
「良かったら一緒に見る?」
そう言ってくれた瞬間、僕は良子ちゃんに恋をしてしまったのだ。もちろんその時ははっきりとはそんなことを思わなかったけど、今思えば確かにそうだ。良子ちゃんの家はお金持ちで、お母さんがBMなんたらっていうガイシャに乗っている。
僕は自分のことは良く分からないけれど、良子ちゃんと自分が何か違う人間だっていうことは分かっている。でもそんなことはどうでもいいんだ。一緒に居ると何となく、もっと一緒に居たい気持ちになるんだ。後で考えると、これが「好き」っていうことなのかなと、思うようになった。
10年後
良子は僕の目をじっと見ている。
「あなたは結局自分しか見てないんだわ」
魚で一番悲しいのは金魚だっていうフレーズを聴いたことがある。そんなことを考えながら、空と海の境い目が分からない風景の中で、僕の頭はただ痛い。
目の前にあるコーヒーの黒い球面に写る自分の顔を見ながら、同じく目の前に居る良子という存在を疎ましく感じている。
とりあえず殴った。
右手と左手が何度か交差した後、山内と名乗る店員が、僕の両脇をしっかりと押さえつけている。同時に沸き上がる嘔吐感。全てが真っ黒に見える。黒という色には成る程何種類かあるのだなと思っている内に、僕は良子と店を出ていた。
隣で涙目になった良子と一緒に、僕は帰路についている。10年前にも同じ景色を見たんじゃないかと僕は思ったが、2人の手はつながれてはいない。空には鳥が飛んでいる。はてあの鳥の名前は何だったかな。
鳥がどこまでも高く飛べない理由は、何てことない、それが鳥の生活だからだ。そして僕は自分の生活に納得している。しかし一体どういう理由なのか、さっぱり頭がさえないのだ。何かあればイラついてしまう。幻覚のようなものまで見えてくる始末だ。
いっそ自分が背中の方から、段々と大きくなって、街を覆い隠すほどの巨人になり、そしてその体重を支えきれなくなった骨がバラバラに砕け散ってしまえばいいのに。どこかの漫画でそんな内容の話を読んだ。自分の知識なんて全て受け売りだ。
そういえば黒目の下のあたりまで横に広がる可愛らしい良子の笑顔、最近はあまり見ていない。自分が悪いことはどうに理解している。しかしどうすればいいのかが、分からないのだ。僕はふと、良子に聞いた。
「僕のことをどう思っているの?」
そして良子はいつものように、
「好きよ」
と言ってくれた。僕はその瞬間、泣きたくなるほど体の力が抜け落ちてしまった。そして、
「ごめんなさい」
と何度も繰り返した。
ああ、もう何百回も繰り返したであろうこの場面。
僕のこの目は、もう君と同じ風景しか見ないのだから、いっそくり抜いて君に貰って欲しい。
僕のこの舌は、もう君への愛しか語らないのだから、いっそ引き抜いて君に貰って欲しい。
空には入道雲が巨人のようにもりもりと広がっていて、傍の川には魚が泳いでいる。
僕はただただ良子に、
「ありがとう」
と繰り返した。
10年後
僕は麻由美と幸せに暮らしている。
僕は平気な顔で、麻由美と一緒に暮らしている。
僕は、幸せそうな顔をして、麻由美と2人で、暮らしている。
終わり。
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